「華裔・華僑・華人」 林華生(リムホァシン)

データが消えてしまうと読めなくなるので魚拓。
asahi.com ASIA NETWORKより

「華裔・華僑・華人
林華生(リムホァシン)
早稲田大学アジア太平洋研究センター教授・副所長(マレーシア)

 アジア各国の華裔(かえい)(中華民族の子孫)は約2719万人(1998年)と推定され、「両岸四地」(中国大陸、香港、マカオ、台湾)を除いた東南アジア諸国連合ASEAN)を中心とする東南アジアの華僑・華人を指す。しかし、「落葉帰根」(華僑)から「落地生根」(華人)への変容が著しい。

 華僑はアジアに住んでいながら、居住国の国籍を取っていない者を指す。中国の国籍を保有しているか、無国籍でいるか、のどちらかである。華僑人口の正確な数を把握することは困難であるが、約400万人強と推定される。華人は居住国の国籍を取っており、国籍上中国とは縁がない。つまり華人は、中国とは歴史上、文化上、および血縁上のつながりを持つが、中国人ではない。

 歴史を振り返ると、中国人の海外居住は9世紀の唐朝にさかのぼる。最盛期は、アヘン戦争に敗れた清朝が開国を余儀なくされた後のことであった。1949年、中華人民共和国が成立すると同時に、南洋に渡った華裔も華僑か華人かの選択を迫られ、アジア諸国と中国との国交樹立をきっかけに、華僑か華人かの身分は明確となった。

 華裔は中国とは切っても切れない関係にある。華裔はまず「棄民」として南洋に流れた。「自生自滅」(生きるか死ぬか本人次第である状況)にさらされたが生き延びていった。孫文清朝を打倒するため、華僑・華人から強力な人的、物的、金銭的支援を受けた。そして「華僑は革命の母である」という言葉を残した。文化大革命の間は、「四人組」によって華僑・華人が批判・粛清された。しかし、78年以降になると、改革開放政策や「社会主義市場経済」が展開されたことから、華僑・華人資本の中国進出が期待され、促進された。

 だが、中国の華僑・華人対策は見直される必要がある。中国はいまだに華僑・華人を一括して中国人系と見る「華僑対策」にとどまっている傾向がある。中国の著名大学や研究機関でも「華僑研究」を行っているにすぎない所が少なくない。華人企業家の対中国投資も「愛国華僑の祖国への投資」と見なすケースがしばしば見られる。

 しかしながら、移住先や居住国の国籍を保有している以上は、もう華僑ではない。当該国の国民であり、主人公である。「郷愁の念」もあるだろうが、居住国の国民としての義務をもっと果たさねばならない。居住国に溶け込み、社会的、経済的、文化的発展に貢献せねばならない。中国も華人という特別な感情にとらわれず、客観的にその力を評価すべきだ。

2001年3月5日